2026年8月28日、Sony Music PublishingとWarner Chappell Musicの関連出版社が、Claudeを開発するAnthropicを米国の連邦裁判所に提訴しました。
ただし、これは出版社側が提出した訴状の段階です。Anthropicの著作権侵害が確定したわけではありません。争点は「AIが音楽を学習したこと」だけではなく、その教材をどのように入手し、複製し、出力へ使ったのかにあります。
何が起きたのか
訴状は2026年8月28日、カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所へ提出されました。事件番号は5:26-cv-09217です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原告 | Sony Music PublishingとWarner Chappell Musicの関連出版社 |
| 被告 | Anthropic、CEOのDario Amodei、共同創業者のBenjamin Mann |
| 対象 | 出版社側が権利を持つと主張する数万曲規模の楽曲 |
| 主な主張 | トレント、スクレイピング、ダウンロードによる無断取得と複製 |
| 現在地 | 提訴直後。判決は出ていない |
ここでいうソニーとワーナーは、主に楽曲の作詞・作曲に関する権利を扱う音楽出版社です。レコード会社が保有する音源そのものだけをめぐる訴訟ではありません。
訴えの中心は学習データの入手方法です
出版社側は、AnthropicがClaudeの開発に使う著作物を大きく3つの経路で無断取得したと主張しています。
| 出版社側が主張する取得経路 | 訴状に書かれた内容 |
|---|---|
| 海賊版ライブラリからのトレント | LibGenとPiLiMiから書籍を取得。歌詞や楽譜を含む書籍もあったと主張 |
| 歌詞サイトのスクレイピング | MusixMatchやLyricFindなどから歌詞を収集したと主張 |
| 書籍と外部データセット | 中古本の裁断スキャン、Common Crawl、The Pile、Books3などを利用したと主張 |
訴状では、Anthropic側が2021年6月にLibGenから少なくとも500万冊、2022年7月にPiLiMiから少なくとも200万冊をトレントで取得したとされています。この数字は過去のBartz事件で開示された資料を根拠にしています。
BitTorrentはダウンロードと同時に他の利用者へファイルをアップロードする仕組みです。出版社側は、複製だけでなく配布権も侵害したと訴えています。
illegally torrenting, scraping, and downloading copyrighted works on a massive scale
この一文は原告側の主張です。裁判所が認定した結論ではありません。
名前が挙がった楽曲
訴状は、対象例として次の楽曲を挙げています。
| 楽曲 | 訴状での扱い |
|---|---|
| Ain’t No Mountain High Enough | 対象例として記載 |
| All I Want for Christmas Is You | 対象例として記載 |
| Eye of the Tiger | 対象例として記載 |
| Here Comes Santa Claus | 対象例として記載 |
| Paper Rings | 対象例として記載 |
これは対象の一部です。訴状は、原告側が権利を持つとする楽曲が数万曲規模に及ぶとしています。
Claudeの出力も争点になっています
出版社側は、取得した著作物を学習へ使っただけでなく、Claudeが歌詞をそのまま、またはほぼ同じ形で出力したと主張しています。
さらに、正規の歌詞に付いていた著作権者名などのCopyright Management Information(著作権管理情報)を取り除いた状態で学習や出力が行われたとして、DMCAに基づく責任も求めています。
訴状が示す4つの請求は次の通りです。
| 請求 | 対象 |
|---|---|
| トレントによる直接的な著作権侵害 | Anthropic、Amodei、Mann |
| トレントを助けた寄与侵害 | Amodei、Mann |
| 学習や出力などによる直接的な著作権侵害 | Anthropic |
| 著作権管理情報の除去または改変 | Anthropic |
共同創業者2人が個人として被告に含まれたのは、出版社側がトレントの判断や実行への関与を主張しているためです。個人責任が認められたわけではありません。
原告が求めているもの
出版社側は陪審裁判を求めています。さらに訴状では次の救済を求めています。
故意の著作権侵害については、1作品あたり最大15万ドルの法定損害賠償があり得ると原告側は主張しています。著作権管理情報の除去については、1件あたり最大2万5,000ドルを求める可能性があります。
対象が数万曲なら理論上の金額は数十億ドル規模になり得ます。ただし、訴状に確定した賠償総額が書かれているわけではありません。作品ごとの権利、侵害の有無、故意性、対象件数などが今後争われます。
Anthropicは争う姿勢です
AnthropicはAxiosに対し、出版社側の主張に同意せず、裁判で強く争うという短い声明を出しました。
We disagree with the publishers’ claims and we intend to defend ourselves robustly in court.
2026年8月30日時点で、今回の訴状に対する詳細な反論書面はまだ確認できません。今後の答弁や却下申立てで、取得経路、権利関係、fair use、損害の範囲が具体的に争われるとみられます。
過去のBartz事件とは何が違うのか
今回の訴状を理解するうえで重要なのが、作家らがAnthropicを訴えたBartz事件です。
同事件では2025年、裁判所がLLMの学習工程で書籍を複製する行為についてfair useと判断しました。一方、海賊版ライブラリから数百万冊をダウンロードし、恒久的なライブラリを作る行為についてはfair useと認めませんでした。
つまり、過去の判断は次の2つを分けています。
| 行為 | Bartz事件での判断 |
|---|---|
| 正当に保有する書籍をLLM学習工程で複製 | fair use |
| 海賊版ライブラリから取得して中央ライブラリへ保存 | fair useではない |
この事件はその後、15億ドルの集団訴訟和解が最終承認されました。和解の対象は約48万2,000作品で、AnthropicにはLibGenやPiLiMiから取得した原ファイルなどの廃棄も求められています。
今回の音楽出版社の訴えは、この「学習」と「入手」を分けた判断を使い、楽曲の歌詞や楽譜を含むコピーの取得自体を問題にしています。さらにClaudeの出力と著作権管理情報も争点へ加えています。
Claudeは使えなくなるのか
現時点でClaudeの提供停止は発表されていません。提訴されたことだけで、利用者が直ちにClaudeを使えなくなるわけではありません。
ただし、原告側は学習データの開示や侵害コピーの廃棄、将来の侵害差し止めを求めています。裁判所がどこまで認めるかによっては、学習データの管理、歌詞を含む回答のguardrail、出版社とのライセンス交渉に影響する可能性があります。
Claudeを仕事で使う側は、AIが出力した歌詞や既存作品に近い文章を、そのまま公開物へ使わないことが重要です。出力の出典確認と権利処理は、今回の裁判結果を待たずに必要です。
今後見るべき3点
| 確認点 | なぜ重要か |
|---|---|
| Anthropicの正式な答弁 | 出版社側の主張に対する具体的な反論が初めて分かる |
| 裁判所が取得と学習をどう分けるか | Bartz事件の考え方が音楽著作物にも及ぶかが分かる |
| 出力と著作権管理情報の扱い | 学習データだけでなく、Claudeの回答設計へ影響する可能性がある |
今回の提訴は、AI学習を一律に合法または違法と決める裁判ではありません。どこからデータを入手し、何を複製し、何を出力したのかが個別に問われます。
よくある質問
ソニーとワーナーがClaudeを訴えたのですか
正確にはSony Music PublishingとWarner Chappell Musicの関連出版社が、Claude開発元のAnthropicと共同創業者2人を提訴しました。
Anthropicの著作権侵害は確定しましたか
確定していません。現時点では原告側の訴状が提出された段階で、Anthropicは争う姿勢を示しています。
Claudeは停止しますか
提供停止は発表されていません。原告側は差し止めや侵害コピーの廃棄を求めていますが、裁判所の判断はまだ出ていません。
AI学習は違法なのですか
一律には言えません。Bartz事件では、LLM学習工程での複製と、海賊版ライブラリからの取得が別に判断されました。今回も取得、学習、出力、著作権管理情報がそれぞれ争点になります。




